【中小企業に潜む「気づかない情報漏洩」】〜その行為、実はリスクです〜

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中小企業では情報漏洩のリスクが高まっているが、実際に問題になるのは「気づかないまま漏洩しているケース」である。サイバー攻撃だけでなく、日常業務のちょっとした行為からも情報は外部へ流出してしまう。「うちは大丈夫」と思っていても、それは単なる思い込みに過ぎない。本稿では、中小企業にありがちな“気づかない漏洩”の具体例と、それがもたらす経営リスク、そして低コスト・低負荷で始められる対策をわかりやすく解説する。サイバーセキュリティ、情報漏洩、IT初心者向け、リスク管理といった視点から、経営者・管理者が押さえるべきポイントを整理した。

情報漏洩といえば大規模なハッキングやマルウェア感染を想像しがちだが、実際に多いのは“誰もがやりがちな行動”からの漏洩である。中小企業ではこの“気づかない漏洩”が特に起きやすい。

大手のような専任部署がなく、管理が曖昧になりやすい

多くの中小企業では、情報管理の専任担当者が存在しない。ITの運用も総務や経理などが兼務で行うケースが多く、専門性の低さと作業の片手間感が、情報漏洩の温床となっている。
『【総集編】中小企業向けセキュリティ対策の正解とは?』でも指摘したように、ツールを導入しても「運用されない」「把握されない」というケースが多く、結果として“漏れているのに気づかない”状態が続く。これはIT人材不足という構造的課題が背景にあると言える。

日常業務の“ついで”で発生する小さな行動

例えば、外出先で資料を印刷するために自宅のPCにデータを送った、スマホでメモを取るために顧客情報をスクリーンショットした――これらは悪意がなくとも立派な情報漏洩である。日常的な「ついで」の行動にこそ、最大の落とし穴がある。
『中小企業に必要なリーダーシップの土壌』でも語ったように、現場の判断に任せすぎることがリスク管理の空洞化を招く。実は、「指示されていないことはやらなくていい」という空気こそが、“気づかない漏洩”を増やす要因でもあるのだ。

コスト優先でセキュリティ対策が後回しになる現実

「セキュリティは大事。でも今は売上が先」。これは中小企業の経営者がよく口にする言葉だ。だが、『IT顧問のススメ』に論じた通り、安易なツール導入や形だけの対策ではむしろ逆効果になることが多い。
セキュリティを後回しにした結果、漏洩事故が起き、かえって大きな損失や信頼失墜を招く。そうなる前に、“最低限、やるべきこと”を見極める必要がある。

「IT顧問のススメ」是非、ご一読ください。
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多くの企業では、情報漏洩=大事件というイメージが強く、「些細なこと」は見過ごされてしまう。しかし、実際に漏洩として問題になるケースは多岐にわたる。

社外持ち出し(USBメモリ・私物PC・クラウド)

USBメモリにデータを入れて持ち歩く。これは非常に一般的だが、紛失や盗難時には重大な情報漏洩となる。クラウドストレージも、個人アカウントでの利用は情報管理上、極めて危険である。
『【VPNの盲点】』では、VPNの設定ミスがサイバー攻撃の起点になった事例も紹介しており、対策を講じるには一定の知識が必要である。

オフィス内での無防備(書類放置・画面のぞき見・名刺管理)

紙の資料をデスクに放置、PC画面を開きっぱなしで席を外す――このような行動もれっきとしたリスクである。名刺管理がずさんで、訪問者が目にすることもある。
情報は必ずしも「デジタル」だけではない。アナログな漏洩こそ、見落とされやすい。

退職・異動時のデータ管理不足

退職者のアカウント削除がされていない、私物のUSBにデータをコピーしたまま退職している――こうした事例は非常に多い。引き継ぎ不備と組織的管理不足が、じわじわと企業の信用を損ねる。
この問題は『任せる勇気が経営を変える』で語っている「責任の所在の曖昧さ」ともリンクする。

外出先でのWi-Fi利用やSNS投稿

カフェで公衆Wi-Fiを利用して業務メールを送る。業務中のSNS投稿に資料の一部が写り込む――このような行動は一見些細に見えるが、情報漏洩のリスクは極めて高い。
『【徹底解説】セキュリティ対策ガイドライン 5か条!』でも、公開ネットワーク利用時のリスクは警鐘が鳴らしている。


情報漏洩が与える影響は、単にデータが失われることにとどまらない。経営に直結する重大なリスクをはらんでいる。

取引先からの信用低下

一度でも情報漏洩を起こせば、取引先からの信頼は大きく揺らぐ。取引停止、契約見直しなど、直接的な売上減にもつながる。特にBtoBビジネスでは致命的だ。
『セキュリティは“売上に貢献する無形資産”』という考えがあるように、信頼の維持こそが最も強力な競争力となる。

法令違反・契約違反のリスク

個人情報保護法などに違反すれば、罰則や行政指導の対象になる。取引先との契約に違反することもあり、法務コストも跳ね上がる。
中小企業は法務部門を持たないことが多く、知らぬ間に「契約違反状態」に陥っていることもある。

トラブル対応コストの発生

漏洩が発覚した際の顧客対応、弁護士相談、システム再構築など、多大な対応コストがかかる。これらはすべて“想定外”の支出であり、資金繰りにも影響を与える。


予算や人材が不足していても、「できること」はある。大事なのは完璧を目指すことではなく、“まずやってみること”だ。

まずは社内ルールを“紙1枚”で明文化

情報持ち出し、書類管理、退職時の対応――これらを簡潔なガイドラインにまとめ、社員に共有することが第一歩である。
『「文章化できない病」が組織を蝕む』でも明言しているように、文章でルールを明文化することで責任の所在が明確になり、属人化を防げる。

持ち出し・廃棄のプロセスをシンプルに統一

USBメモリの使用許可制、紙資料の定期回収、機密書類のシュレッダー設置――こうした小さな取り組みでも大きな成果が出る。
大切なのは、全社員が“やりやすく、守りやすい”ルールにすることだ。

社員教育を“難しくせず、わかりやすく”定期的に

毎月10分のミニ勉強会、チェックリストによる自己診断、社内メルマガでの注意喚起――難しい内容よりも、「日常に落とし込む工夫」が効果的である。

費用をかけずにできるチェックリスト活用

IPAが公表している「情報セキュリティ5か条」はまさに“ゼロ円でできる最低限の対策”である。
『【徹底解説】セキュリティ対策ガイドライン 5か条!』ではその有効性を詳しく解説しており、中小企業にとって現実的な指針となる。


情報漏洩は一夜にして起きるわけではない。日々の業務における“小さな習慣”の積み重ねが、やがて“大きな事件”を引き起こす。
だからこそ、ツールや予算の問題よりも、まずは「気づくこと」「見直すこと」「定着させること」が重要になる。


そして、もし自社で対策を進めるリソースがないのであれば、外部の専門家やIT顧問のサポートを検討することも有効である。中小企業こそ、専門家を味方につけることが最大のセキュリティ対策だと言える。


「うちは関係ない」ではなく、「今日からできることは何か?」を全員で考える。それが、情報漏洩から会社を守る第一歩である。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。
また、お会いしましょ。