「機械音痴」を前提としたIT製品選定とは:中小企業のための7つの使いやすさ評価ポイント

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中小企業にとって、セキュリティ対策や業務効率化のためにITツールやクラウドサービスを導入することは避けて通れない課題となっている。しかし、導入したツールが“使われない”“理解されない”“間違って使われる”といった問題が起きれば、すべてが水の泡になる。

「高機能=高効果」とは限らないのがIT投資の難しいところだ。本稿では、中小企業がIT製品を導入する際に“機械音痴”の社員を前提とした製品選定を行うための「使いやすさ7つの評価ポイント」を、ISO規格や実務現場の知見をベースに丁寧に解説する。

ツールの性能や機能に注目しがちだが、現場での「使いやすさ」が運用の継続性と投資対効果を左右する。導入後の現実と課題を知っておくべきだ。

ITツールの価値を左右するのは「人間」

多くの中小企業では、ITツールを扱うのは“専任のIT人材”ではなく、現場の一般社員である。例えば経理担当者が会計ソフトを使い、事務スタッフがクラウドストレージを操作し、パートタイムのスタッフが販促ツールにデータを入力する。

つまり、最前線に立つのはITの専門家ではない。現場にいるのは“機械が苦手”で“説明書を読まない”タイプの人たちかもしれない。だからこそ、いくら優れたツールでも「誰でも使える設計」でなければ宝の持ち腐れになるのだ。「なぜジョニーは暗号化できないのか」という論文は、ツールが使いづらければ人は使えない、という現実を突きつけている。

「慣れ」に任せる運用は失敗する

「そのうち慣れるだろう」としてツールの教育や設計配慮を後回しにする姿勢は危険である。現場では常に時間に追われており、業務に即座に活かせないツールは“後回し”“敬遠”されてしまう。そして次第に誰も触らなくなり、運用停止状態となる。これでは、導入コストはすべて無駄になる。

しかも、それが1つや2つではなく、Web会議ツール、SFA、クラウドストレージ、グループウェアなど複数の製品で起これば、損失は想像以上に大きい。経営者として、ツールが現場に馴染むかどうかの視点を持たなければ、「費用対効果の低いIT投資」を繰り返すことになる。

DX化・IT化の失敗は「道具の選定ミス」から始まる

DXやIT化の推進に前向きな企業ほど、最新技術や流行のツールに飛びつく傾向がある。しかし、導入が目的化し、「とりあえず入れてみる」「周りがやっているからうちも」という姿勢では、現場がついてこられない。

結果的に、導入したツールが活用されず、形骸化したシステムが社内に散らばることになる。中小企業にとって重要なのは“自社にフィットした道具”を選ぶことだ。見栄えや話題性ではなく、使われることを前提とした設計を選定基準とすべきである。

ISO 9241-11をベースに、実務的な評価基準として再構築した「7つの視点」。経営者や選定担当者が使い勝手を判断する基準となる。

初見でも「なんとなく使える」「感覚でわかる」──これが直感的な操作性だ。多くの中小企業ではマニュアルを熟読する余裕も、研修に時間を割く余地もない。たとえば、スマホのアプリのように触っていれば自然に理解できる構造。ボタン配置が論理的で、メニュー階層が浅く、不要なステップを排除しているUIであれば、現場でも受け入れられる。特に複数拠点で導入する場合は、この“初回のつまずき”を最小化することが導入成功のカギとなる。

一度使って学べば次からは迷わず使える。これが「学習のしやすさ」だ。操作体系に一貫性があれば、人は自然と手順を覚える。保存や戻るなどの基本操作が統一されていれば、違う機能でも応用が利く。学習コストを下げる設計は、教育・研修時間を最小限にでき、少人数運営の中小企業にとって大きな武器になる。

使い慣れた後の生産性を支えるのが「効率性」だ。たとえば、ショートカットキーで入力操作が簡略化できたり、過去の入力を自動補完できる機能があると、時間短縮になる。手順の少なさは操作ミスの削減にもつながる。効率性の高いツールは、導入後すぐに「便利だ」「もう手放せない」といった声が現場から上がるようになる。

人は必ずミスをする。問題はそのときの“結果”だ。操作ミスが即、データ消失につながるような設計では、現場は恐怖心を抱いて操作を避けるようになる。Undo(やり直し)、リカバリ、エラー通知などが備わっていることが、“使いやすさ”の重要な条件だ。エラーは使い手の責任ではなく、回復できる仕組みがあってこそ安心して使える。

UIが美しく、使っていてストレスを感じない──これは操作性とはまた別の、心理的な満足度の話だ。レスポンスの速さ、無駄なクリックの排除、視認性の良さなどが含まれる。中小企業にとって大切なのは「使っていてイライラしない」こと。これが従業員の積極的な活用につながり、定着率にも影響する。

多様な人材が働く中小企業では、アクセシビリティの考慮も無視できない。たとえば色覚に配慮した配色設計、音声読み上げ対応、マウスなしでも操作可能なインターフェースは、高年齢層や身体的制約のある人にも優しいツールである。すべての従業員が安心して使える設計こそが、真の“全社的なIT導入”を実現する。

自社の業務とマッチしているか──これは導入成功を左右する最大の視点だ。あまりに多機能で使い方が複雑だと、現場が混乱する。逆に、シンプルで目的が明確なツールは、導入後すぐに業務に浸透する。導入時には“業務フローとの適合性”を評価基準にするべきだ。

セキュリティ対策や業務改善の文脈で経営者が持つべき判断基準を整理する。

機能より「運用」の視点で考える

機能一覧を眺めて判断するのではなく、「この機能を誰がどう使うか?」という運用視点を持つことが重要だ。機能を使うことが目的になってしまえば、現場との乖離が生まれ、定着しない。「簡単に操作できる」こと、「誰でも使える」ことを優先順位の上位に据えよ。

IT初心者に試用させて評価する

ツールの選定時には、最もITリテラシーが低い層に操作してもらい、フィードバックを得るべきだ。ITに詳しい人が「これは良い」と感じても、現場では通用しないことがある。逆に、初心者が「これなら使える」と言えば、その製品は“本物”である。

セカンドオピニオンを必ず入れる

ベンダーの説明だけを鵜呑みにしてはいけない。自社の視点に偏らず、第三者であるIT顧問やセカンドオピニオンから「使いやすさ」や「運用適合性」を客観的に評価してもらうことで、選定の精度は格段に上がる。

IT製品の導入において、成功のカギを握るのは「誰が使うのか」ではなく「誰でも使えるか」である。高機能・多機能な製品ではなく、現場でストレスなく使われる製品こそが、結果的に企業の利益をもたらす。「使いやすさ」は感覚的なものではなく、7つの評価基準として定量的に見ることができる。経営者は“見栄え”や“流行”に惑わされることなく、現場に寄り添った選定を行うべきである。

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また、お会いしましょ。