【セキュリティ評価制度】対応を名目にしたツール導入に注意! 〜 今、経営者が知っておくべき“本当の対応順序”〜

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経産省が主導する「セキュリティ対策評価制度」は、サプライチェーン全体のリスク可視化を目的としたものであり、決して特定のセキュリティ製品を導入させる制度ではない。しかし現場では、この制度を口実にITベンダーが高額ツールの導入を迫る営業が目立ち始めている。中小企業の経営者や総務担当者にとっては、「制度対応=ツール導入」と誤解してしまいがちな今、冷静な視点と的確な対応方針が求められる。本稿では「セキュリティ評価制度」の正しい理解と、自社にとって必要な対応順序について、具体的な行動指針を提示する。

「セキュリティ評価制度」への関心が高まる中で、ツール販売が活発化している背景を整理する。

経産省の制度とは「見える化」と「体制整備」を目的とするもの

現在、経済産業省が検討している「セキュリティ対策評価制度(仮称)」は、企業がどの程度サイバーリスクに対応できているかを、共通の指標で可視化することを目的としている。背景には、サプライチェーン全体のリスク管理強化があり、単にツールを導入したかどうかではなく、「ガバナンス体制の有無」「定期的な点検体制」「責任者の明確化」などが重視されている。

現場では“制度対応”を名目にしたツール販売が進行中

しかし、実際の商談現場では「★4対応済み」「制度準拠のセキュリティツール」といった営業トークが増えている。「この製品を入れれば制度対応できますよ」という提案が横行しており、特にITに詳しくない中小企業の経営層ほど、「制度対応しないと取引停止されるかも」と不安を感じ、早急な判断をしてしまう傾向がある。

不安を煽る営業手法に要注意

「制度対応しないと評価が下がる」「取引先から外される」といった言葉でツール導入を迫るベンダーの提案には注意が必要だ。義務化ではなく、あくまでも「評価」や「見える化」のための制度であり、取引停止などの直接的な制裁を伴うものではない。ここを誤解すると、不要な投資に踏み切ってしまう可能性が高い。


評価されるのは導入した製品ではなく、継続的な体制整備の実態である。

ポリシーと責任体制の整備が重要

制度の評価項目では「セキュリティポリシーの策定」「責任者の配置」「定期的な自己点検」「教育訓練の実施」「報告体制の整備」など、体制そのものが問われる。単に「製品を導入したかどうか」では評価されず、継続的な運用が前提となっている。

「入れただけ」で放置されたツールは評価されない

筆者の顧問先でも「EDRを入れたのに誰も見ていない」「ログが溜まるだけ」「更新されていない」といった例は後を絶たない。制度上は、ツールの設定内容や運用履歴が評価されるため、導入だけで済ませている企業は“未対応”と見なされる可能性が高い。

「制度対応」とは、体制を整えること

評価制度は「導入した製品の一覧」を求めているのではなく、「なぜその製品を導入したのか」「どう運用しているか」「誰が責任を持っているか」といった運用プロセスそのものを問うている。ここを誤解しないことが重要だ。


経営者として、制度対応を正しく判断するために必要な基本プロセスを解説する。

現状把握(アセスメント)

まず、自社の情報資産、業務フロー、リスク要因を棚卸ししなければならない。たとえば、どこに重要データが保存されていて、誰がアクセスできるのかを把握していない状態で「暗号化ツール」を導入しても、その運用は形骸化してしまう。運用体制の前提となる「現状把握」が欠けていれば、制度対応にはならない。

優先順位の設定

アセスメントの結果をもとに、どのリスクに優先して対処すべきかを決める必要がある。全てを一度に対策するのではなく、「今すぐやるべきこと」「段階的に取り組むべきこと」を切り分けて、無理のない予算配分を行うことが肝要だ。IPAが示す「セキュリティ5か条」も、その第一歩として有効である。

運用責任の明確化

最後に、「誰がその仕組みを管理するのか」をはっきりさせる。導入したツールを誰が監視・更新・報告するのか曖昧なままだと、制度上の評価は得られない。「ツールを導入すれば終わり」ではなく、「使い続ける責任者がいる体制」が求められるのだ。経営者自身が旗を振る姿勢も欠かせない。


ベンダー提案には営業目線があることを理解し、第三者視点を挟むことが重要。

ベンダーは“売るのが仕事”であるという前提を忘れない

ITベンダーの助言は必ずしも間違っているわけではない。しかし、提案の目的が「製品の販売」である以上、そこには一定のバイアスが含まれていると考えるべきだ。「制度対応済み」「★4認証取得済み」という説明があったとしても、その内容が実際の制度要件と一致しているとは限らない

「セカンドオピニオン」の重要性

医療の世界で「セカンドオピニオン」が常識であるように、ITやセキュリティの領域でも複数の視点から判断を下すことが欠かせない。中小企業であれば、IT顧問、外部の専門家、あるいは中小機構の支援員など、第三者からの中立的なアドバイスを求めることを検討すべきだ。

制度文書と照らし合わせる姿勢を

提案資料の内容が、実際に制度文書や評価基準にどのように記載されているのかを確認することも重要だ。「○○制度対応」とうたわれている製品が、実際には運用要件を満たしていないこともある。制度対応かどうかは、ベンダーのパンフレットではなく、制度の文書と付き合わせて判断する必要がある。


「セキュリティ評価制度」への対応とは、製品を買うことではなく、社内体制を整えることにほかならない。

中小企業の経営者が今問われているのは、「どんな製品を入れたか」ではなく、「どんな体制でそれを運用しているか」である。ツールは必要だが、それは運用体制を支える補助輪のような存在にすぎない。

制度をきっかけに、自社のセキュリティポリシー、教育体制、責任者の配置、報告体制など、根本的な“仕組み”を見直し、実効性のある運用を実現することこそが、真の「制度対応」となる。

“制度対応”の名を借りた販売提案に流されることなく、自社の事業規模と運用能力に見合った、無理のないセキュリティ経営を進めていただきたい。最後に一言――ツールは必要。しかし、ツールだけでは無力である。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。
また、お会いしましょ。