【人に頼らないセキュリティ】〜技術で情報漏洩を“不可能に近づける”方法とは〜

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サイバー攻撃や内部不正による情報漏洩が日常的な脅威となっている今、多くの中小企業が「人間の教育」や「ルール遵守」に頼ってセキュリティ対策を行っている。しかし実際には、それだけでは十分な防御にならない。では、技術だけで“情報漏洩を未然に防ぐ”ことは可能なのだろうか?本稿では、IT初心者の中小企業経営者にも理解できるように、技術によって実現可能な漏洩防止の仕組みと、技術でも防げない領域を明確に切り分けて解説する。また、限られたコストと人材リソースでも導入可能な“人に依存しないセキュリティ対策”の考え方を提示する。キーワードは「ゼロトラスト」。この概念をベースに、現実的で持続可能な対策を構築する道筋を示す。

セキュリティ対策における第一歩は、「何が技術で防げるか」を正しく理解することだ。

人間のミス・悪意は完全には止められない

もっとも多い情報漏洩の原因は、人間のうっかりミスや、悪意ある内部犯行である。メールの誤送信、パスワードの使い回し、私的クラウドへのファイル転送…。こうしたヒューマンエラーを“完全にゼロ”にすることは事実上不可能だ。従来の「教育」や「ポスターによる注意喚起」では、時間が経つほどに効果が薄れ、再発を防ぐ手段にはなりにくい。

しかし“データを取れない構造”には変えられる

一方で、技術を用いることで「そもそも情報を社外に持ち出せない構造」に変えることはできる。重要なのは、人間の記憶や注意力に頼らず、「操作しようとしてもできない」仕組みを構築することだ。つまり、“禁止する”のではなく、“不可能にする”ことが本質である。

境界防御から“データを守る”考え方へ

従来のセキュリティは、ファイアウォールやウイルス対策のように「外部からの侵入を防ぐ」境界型モデルが主流だった。しかし、リモートワークやクラウド利用が広がった現在では、“社内と社外の境界”が曖昧になっている。今や守るべきはネットワークではなく、「データそのもの」なのである。これが「ゼロトラスト」の考え方に通じる。


中小企業でも実現可能な、実務レベルの技術的漏洩防止策を紹介する。

DLP(情報漏洩防止)で自動検知と遮断

DLPとは、データの中身を自動で検知し、特定の条件に合致した場合にコピーや送信を自動でブロックする仕組みである。たとえば、個人情報の入ったファイルをメールに添付した場合や、USBに保存しようとした場合に警告・遮断される。これは設定次第でかなり柔軟に制御可能であり、中小企業でも重要な業務領域に限定すれば低コストで導入できる。

EDR/端末制御で物理的な抜け道を塞ぐ

EDRやMDMといった端末管理の仕組みにより、USBポートを無効化したり、特定のアプリケーションやクラウドサービスへのアクセスを制限したりすることができる。これにより、社員が私物のUSBで情報を持ち出すといった行為を技術的にブロック可能になる。

IRM(情報権限管理)でファイルの開封権限を制御

IRMは、ファイルを開く際の「鍵」をクラウドやサーバ側に持たせることで、たとえファイル自体がコピーされても、許可された人・場所・時間以外では開けないように制御する仕組みだ。メールで送信しても、社外では開封できないようにすることができるため、「盗られても開けない」状態を実現できる。

データを端末に保存させないアーキテクチャ

仮想デスクトップ(VDI)やクラウドベースの業務アプリを活用すれば、データは全てクラウド上に留まり、端末には一切保存されない構造を作れる。閲覧専用モードを併用すれば、操作はできるが保存・コピー・印刷はできない状態にできる。これは“閲覧はできるが持ち出せない”という理想形に近い。


どれだけ強固なアクセス制御やコピー禁止設定を施しても、最終的に画面が表示される以上、「スマートフォンでの撮影」による情報漏洩は原理的に防ぎきれない。たとえば、IRMで外部でのファイル開封を制限していても、社員が社内で画面を開き、その画面をスマホで撮影し、LINEで第三者に送るといった手口は技術的な制御の枠を超えてしまう。

このような行為を完全に防止することは極めて困難であり、現実的には以下のような抑止策や管理策で対応せざるを得ない。

  • 画面に社員ID・端末名などを常時表示するウォーターマークを付与し、「誰が撮影したか」を明示的にすることで心理的な抑止をかける
  • 執務スペースへの私物スマートフォンの持ち込み制限(ただし実施のハードルは高い)
  • 監視カメラなどでの行動監視(プライバシーとの兼ね合いが課題)
  • 情報の表示タイミングや内容の分割表示により、1画面ですべての情報が把握できないようにする工夫

つまり、スマホ撮影は「最後の抜け穴」であり、これを抑止できるかは心理・環境・物理の3側面での設計が重要になる。現場の運用ルールや空間設計とセットで考えるべきリスクである。


どれだけ高度なセキュリティツールを導入しても、「その人にとって業務上正当な操作」はシステムが止められない。たとえば、営業マネージャーが顧客リストを閲覧し、それを別の媒体でコピーする、あるいは印刷する行為は、正規のアクセスである以上、DLPやIRMでは原則検知されない。

つまり「正しい権限でアクセスし、不正な目的で持ち出す」行為は、技術的に“異常”とは認識されないため、アラートも発生しない。これを「インサイダー脅威」と呼び、セキュリティの最大の弱点の一つとされている。

対策としては以下のような方法がある:

  • 重要データの操作ログの常時記録と監査(「誰が、いつ、どのファイルを開いたか」まで記録)
  • アクセス頻度・時間帯・操作内容に基づく異常検知の導入(AIなどによる“いつもと違う行動”の検出)
  • 高リスクデータに対する「ダブルアクセス認証」(例:マネージャー+システム管理者の承認がないと操作できない)

ただし、こうした対策にも限界があるため、「信頼して任せられる人材の選定」と「不正が起きたときの責任範囲を明確にする契約・体制」が不可欠である。


人間が関与する限り、ヒューマンエラーや悪意による漏洩を完全にゼロにすることは不可能だ。しかし、「情報を盗もうとすれば非常に面倒で、技術的知識が必要で、バレるリスクも高い」という構造にしておけば、偶発的な漏洩や安易な不正は確実に防げる。

たとえば、以下のような構造的対策が「漏洩難易度」を上げる代表例だ:

  • ファイルはすべてIRMで暗号化され、社外からは開けない
    → コピーしても“無意味なデータの塊”になる
  • データはローカル保存禁止+閲覧はクラウド上でのみ
    → USBやスマホに転送しようとしても技術的に不可能
  • DLPでキーワードが含まれたファイルの持ち出しを自動遮断
    → たとえば「マイナンバー」「口座番号」が含まれる文書は送信不可
  • 全てのアクセス・ダウンロード・操作が記録されるログ監視
    → 「やろうと思えばバレる」環境でモチベーションを削ぐ

このように、“抜け道を完全に塞ぐ”のではなく、“抜け道が面倒すぎて誰も通らない”構造を作ることが、中小企業における現実的な対策となる。要するに、防げない要素があるからといって“無防備でいい”という話ではなく、「できるだけの制御と抑止を設計しておくこと」が漏洩リスク低減のカギになる。


ヒューマンエラーを完全に排除することは不可能である。中小企業では特に、ITリテラシーにばらつきがあることも多く、どれほど注意を促しても、うっかりした操作やルール違反は必ず発生する。だからこそ、教育や意識改革に依存するのではなく、「操作そのものを制限する技術的な仕組み」が、最も信頼できるセキュリティとなる。

ルールは“守られる”ものではなく、“破られる”前提で考えるべき

「外部クラウドへのアップロード禁止」「USBメモリの使用禁止」といったルールを策定しても、現場で毎回守られるとは限らない。なぜならルールはあくまで“約束”であり、違反しても即座に検知・遮断されるとは限らないからだ。

実際に、以下のようなケースは中小企業で日常的に起こりうる:

  • USBを使用禁止にしていたが、特に制限が設定されておらず、社員が知らずに私物メモリで社外に持ち出してしまった
  • クラウドストレージの使用禁止を口頭で伝えただけで、特に監視もされておらず、利便性からGoogle DriveやDropboxに勝手に保存していた
  • 「禁止されているのは知っていたが、緊急だったので…」という判断が横行する

こうした事例から分かる通り、ルールは「守ってくれるだろう」という楽観的な期待の上に成り立っているにすぎない。本来は“守られないこと”を前提に、技術的な制御が補完されていなければ意味がない。

注意喚起や教育は、継続的な効果が保証されない

ポスター掲示、セキュリティ研修、メールでのリマインドなどによる“注意喚起”は、確かに一定の啓発効果を持つ。しかし、それが持続するのは一時的な意識の高まりだけである。

たとえば以下のような現象がよく見られる:

  • 研修直後は慎重な操作をしていたが、1〜2ヶ月もすれば元通りの行動に戻ってしまう
  • 新入社員には教育するが、既存社員は数年前のままの知識に頼っている
  • セキュリティ事故が起きない限り、学んだ内容を“忘れていることすら忘れる”

つまり、教育とは“知識を与える”ものであり、“操作を制限する”ものではない。人間の記憶と習慣に頼った対策には、そもそも持続性がない。特に業務が忙しい現場では「効率重視」が優先され、ルールや注意喚起はすぐに形骸化する。

“仕組み化された制御”は、人の意識に依存しないセキュリティ

本当に有効なセキュリティ対策とは、「やろうと思ってもできない」状態を技術的に実現することである。つまり、“人に守らせる”のではなく、“人が破れない”ようにする構造だ。

以下のような技術による仕組みは、その代表例である:

  • USBポートの物理的/論理的な無効化:ポリシーで設定し、挿しても動作しないようにする
  • 社内LANからのみアクセスできる社内クラウド:社外に持ち出してもアクセス自体ができない
  • IRMによるファイルの自動暗号化と開封制限:許可されたアカウント・端末・時間以外ではファイルが開かない
  • 印刷・保存・スクリーンキャプチャ制限付きの閲覧専用ビューア:情報の“再利用”が事実上不可能

こうした仕組みは、一度設定してしまえば、利用者の判断を介さずに常に一定のセキュリティ水準が維持されるという点で非常に強力だ。ヒューマンエラーや“うっかり”による漏洩を、物理的に起こせなくするのである。

たとえリテラシーが高くない社員が操作しても、設計された制御ルールによって「できない」状態が保たれていれば、事故は起きない。これこそが“ゼロトラスト”の思想の本質であり、「信頼せず、常に検証する」という考え方を技術で具現化したものだ。


小まとめ:セキュリティは“教育より構造”で守るべき

中小企業における現実的なセキュリティ対策とは、「人に気をつけさせること」ではなく、「人が気をつけなくても安全な構造を作ること」である。教育や意識づけは補助的なものであり、核となるべきは操作を制御する仕組みの導入と設計だ。

教育とルールは守られない可能性を常に孕んでいる。だからこそ、“やりたくてもできない”という制御環境こそが、最も堅牢でコストパフォーマンスの高いセキュリティとなるのだ。


技術には限界があるが、教育よりはるかに安定する

人間の記憶や行動に頼るより、技術による「できない構造」を作る方が、継続的かつ安定的な対策になるのは明白である。

目的は“漏洩ゼロ”ではなく“漏洩しづらい状態”を作ること

100%防げないことを前提としつつも、「簡単には漏洩できない構造」にすることで、攻撃や不正のハードルを上げる。これこそが現実的なリスク管理である。

中小企業でも実現可能な技術はすでに揃っている

高額なシステムや専門人材がなくても、“部分的な導入”で十分効果を得られる時代になっている。必要なのは、“守りたい情報はどこか”を見極める視点と、それに応じた最小限の仕組み化である。

最後までお付き合いいただきありがとうございます
また、お会いしましょ。