中小企業こそ「戦略」が必要だ:やらないことを決める視点が経営を救う

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中小企業の経営において「戦略」という言葉は、難解で遠い存在に感じるかもしれない。しかし現実には、リソースが限られた中小企業だからこそ、明確な「やらないこと」の選定が最重要となる。

「何をやるか」よりも「何をしないか」を徹底して決めることが、事業の成果と継続性に直結する戦略である。本稿では、経営現場でのリアルな経験と「ランチェスター戦略」に通じる現実的な視点から、中小企業経営者が今日から取り入れるべき“本質的な戦略思考”を具体例と共に紹介する。

中小企業の戦略には、派手なアイデアや多機能な仕組みよりも、リソースの最適配分が求められる。限られた資源を最大限に活用するには「やらないこと」を明確にする判断力が鍵となる。

中小企業はすべてが不足しているという現実

中小企業は「人材」「資金」「時間」「認知度」すべてが足りない状態で経営を行っている。大手と同じようなことをやろうとしても中途半端に終わるのが当然であり、それを「うちは中小企業だから」と正当化していては何も変わらない。まずは自社の立ち位置と状況を冷静に分析し、「何ができないのか」「やるべきでないことは何か」を明確にしておくべきだ。

戦略とは「やらないことを決める」ことである

 新製品のリリース、新たな販路の開拓、SNSでの発信など、目先のアクションに追われる中で、経営資源が分散しやすい。しかし戦略的なアプローチは、それらを「やらない」と決めるところから始まる。製品の機能をあえて削らず、値引きせず、価格競争を避け、強みを際立たせる——こうした決断こそが生き残りの鍵となる。

「やることリスト」で成果が出ない理由

多くの中小企業が、商品をリリースした後に“やることリスト”を作ってタスクベースで動き始める。Webサイト、価格設定、資料作成、営業先リストの作成などがそれだが、そもそもその前提となる「コンセプト」「立ち位置」「誰にどう売るか」という根幹の設計が抜けている。これでは活動のすべてが「散らかって終わる」だけになる。

 「やらないことを決める」という視点は、ランチェスター戦略とも共鳴する。これは中小企業にこそフィットする現実的な戦略理論だ。

まずは「一点集中」で勝てる場所を探す

ランチェスター戦略の要諦は「一点集中」である。すべてに手を出すのではなく、自社が勝てるポイントを見つけ、そこに資源を集中させる。これは「やらないことを決める」ことと表裏一体だ。弱者は広く薄くではなく、狭く深くを選択しなければならない。

“売れる”ではなく“売りやすい”を作る

 「機能を分割して安くしたら売れるのでは?」という声に応じた結果、売れたのは一件だけだったという経験がある。売れる気がする、ニーズがある気がする——それはあくまで感覚に過ぎない。中小企業は感覚に任せるのではなく、実際に売れる形を戦略的に構築すべきだ。売りやすく、サポートも一元化しやすい製品設計が、営業効率にも繋がる。

リソースの“消耗戦”を避けるために

 「やってみないとわからない」として機能分割や新プロモーションを繰り返す中小企業は多い。しかし、それによって業務負荷やサポート体制の煩雑化、マニュアル管理の重複が発生し、少ないリソースでの運用が破綻する。経営判断として「やらない」と決めることは、利益を守る意味でも極めて重要だ。

 戦略は計画や資料ではない。「判断」と「実行」そのものが戦略だ。その前提として、何を基準に動くのかを明確にする必要がある。

認知されない中で始めるという宿命

 中小企業がリリースした製品に対し、顧客は「実績は?」「導入事例は?」と問う。だが、リリース直後にそれは存在しない。つまり、大手と同じ土俵に立って勝負しようとすること自体が誤りであり、戦略とは“自社の土俵をどう作るか”という設計でもある。

「マーケティング活動」ではなく「戦略設計」から

 ホームページの刷新、SNSの発信、YouTubeの動画投稿…それらはすべて手段であって目的ではない。「誰に、何を、どうやって届けるか」という戦略がなければ、これらは全て無駄な時間と労力に終わる。プロモーションの成功事例も、大手企業の認知度とリソースありきだと理解するべきである。

やらないことを決めることが「勝ち筋」を見出すこと

中小企業はあれこれ手を出す余裕などない。だからこそ、「やらないこと」を徹底することで、やるべきことが研ぎ澄まされ、結果として明確な「勝ち筋」が見えてくる。これが現実的かつ実効性のある戦略ということだ。

中小企業の経営において「戦略」を難しく考える必要はない。むしろ、“やらないことを明確にする”という判断こそが最も現実的な戦略行動である。限られた資源をどこに集中させ、どの道を切り捨てるか。それが成否を分ける。

実際に、やらないと決めていたことが結果的に正解だったという経験は数多く存在する。経験と現場感覚が導いた判断が、理論としての戦略と一致していたという事実もまた、多くの中小企業にとって励みになるはずだ。

繰り返すが、「何をやるか」よりも「何をやらないか」——この視点を経営に取り入れることで、あなたの会社にも持続可能な成長と、明確な方向性が生まれるだろう。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。
また、お会いしましょ。