【好き嫌いと良し悪しの混同が組織を狂わせる】 〜 経営に必要な「言葉の精度」〜

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「好きだから良い」「嫌いだから悪い」――その判断、本当に正しいか?


中小企業の経営や組織マネジメントの現場では、感情に基づく言葉の使い方が意思決定の精度に大きな影響を与えている。感覚で語られる会話や曖昧な指示の中に、誤解やすれ違いの“芽”が潜む。 本稿では、経営において「好き・嫌い」と「良い・悪い」を混同しない“言葉の精度”の重要性を、経営者・管理職向けに掘り下げる。
中小企業の現実に即した言語化能力のあり方と、組織を狂わせないための言葉の使い方を、実例を交えて整理する。

経営判断において「好き嫌い」が入り込むと、組織運営は不安定になる。感情と評価は別物であり、そこを取り違えるとリーダーの信頼性は損なわれる。
この章では、感情と論理の境界線を理解することで、判断の質を高める方法を考察する。

好き嫌いと良し悪しは別の次元にある

経営の現場でよくあるのが、「アイツは好きじゃないから任せたくない」「このツールはなんか肌に合わない」といった主観ベースの判断。確かに感情は大切だが、それを“良し悪し”と混同してはいけない。


「好きかどうか」と「正しいかどうか」は全く別の評価軸にある。この混同が生むのは、不公平な人事、意味のないツール選定、そして組織内の不信感だ。
意思決定は、感情を排除して論理的な「評価軸」を持つことが求められる。

経営判断に潜む“主観バイアス”

実際、経営者が気づかないまま主観バイアスに支配される場面は多い。「このやり方は古臭くて好きじゃない」――そう思って却下したアイデアが、実は現場では合理的だったというケースもある。


一方で「なんとなく好き」という理由だけで提案を採用し、実は失敗する事例もある。「感情の好き嫌い」と「経営上の適否」を分けて考える視点を持つことで、判断ミスを減らすことができる。そのためにも、自分の好みを一度“棚卸し”し、「この判断は好き嫌いなのか?それとも論理的な評価なのか?」と自問する習慣が有効だ。

会話の中に潜む誤解の芽

「あの人ってすごいよね」「あれ、最悪だったよね」――こうした日常の表現が、誤解の温床になる。 例えば「すごい」は“良い意味”にも“悪い意味”にも使えるし、「最悪」も冗談交じりで使われることもある。


経営者がこうした感覚的な言葉を部下に使うと、受け手が誤解し、意図しない行動を取る。 言葉は共有財産であり、同じ単語でも解釈が異なることを前提にしなければならない。意思疎通の誤解を減らすには、「どういう意味でそう言ったのか?」を明確にする配慮が必要だ。


言葉のズレは、意思決定や業務推進の妨げになるだけでなく、信頼関係も崩壊させる。この章では、指示や会話で起こる“ズレ”の正体と、それを防ぐための具体策を見ていく。

目的と手段を取り違える危険

「とりあえず訪問してきて」と指示して、訪問だけして帰ってきた社員。その報告を聞いて、「で、成果は?」と経営者が詰め寄る――このパターンは非常に多い。
指示する側は「商談を前に進めてきてほしい」という意図だったが、受け手は「訪問すればOK」と解釈していた。


つまり、「目的(商談を進める)」と「手段(訪問する)」の混同がズレを生む。指示は、必ず「何のためにやるのか?」という目的とセットで伝えるべきだ。

誤解は信頼関係を崩す最大の要因

「言った」「聞いてない」「そんな意味とは思わなかった」――こうしたやり取りは、組織のあちこちで見られる。特に経営層と現場の間では、知識や前提が違うため、同じ言葉でも意味が通じないことがある。


たとえば「改善しておいて」という一言でも、経営者の意図は“根本原因を探って再発防止策まで考えて”なのに、現場は“とりあえず応急処置”で終わる。このギャップが続くと、「どうせ言っても伝わらない」という諦めが広がり、信頼関係は崩れていく。


「言葉」を単なる伝達手段ではなく、“経営資源”として捉える。この章では、経営者が磨くべき「言葉の使い方」について解説する。

言葉の選び方が組織文化をつくる

抽象的な表現ばかりの会社は、いつも“空気を読む”ことに頼りがちになる。「いい感じでやっといて」「ちょっと微調整して」――これでは、部下は動けない。


逆に、「●日までに」「誰が」「どういう方法で」という具体的な言葉を使う文化が根づくと、誤解のない実行力ある組織ができる。
「文章化できない病が組織を蝕む」でも指摘したように、言葉の不明瞭さは業務の再現性・効率・成果の質すべてを低下させる。

言葉を“目的”ではなく“ツール”として使う

言葉は、伝えたい内容を「相手に届かせるための手段」に過ぎない。しかし、言葉そのものが目的化してしまい、「言ったことがすべて」となれば、伝達ではなく“自己満足”で終わる。


重要なのは、「伝えたか」ではなく「伝わったか」だ。「わかるだろう」「察してくれ」ではなく、確認しながら共通認識を持つこと。それが組織全体の“意味の共有”を生み、ブレのないマネジメントにつながる。

経営者自身が“言葉を磨く”

「ヤバい」「すごい」「微妙」など、曖昧な言葉を多用する人ほど、思考も浅くなりやすい。語彙力を鍛える、文章を書く習慣をつける、意味を正しく理解する――この地道な作業が経営者としての説得力を支える。


「上手な指示 指示の正しい認識」でも語ったように、抽象語を排除し、絶対的な表現を使う努力は、指示精度を高め、結果の質を変える。 “言葉を整える”ことが、組織を整える第一歩となる。


経営とは、判断すること。そして、その判断を正確に“伝える”こと。好き嫌いと良し悪しを混同しない視点。目的と手段を取り違えない意識。この2つだけでも、組織のコミュニケーション精度は劇的に改善する。


「わかりやすく伝える力」は経営資源であり、曖昧な言葉を排除することが組織の効率性と信頼性を高める。リーダーに求められるのは、言葉に対する“責任”を持つこと。言葉の精度こそが、信頼の精度を決める。経営とは、そこに本質がある。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。
また、お会いしましょ。