【なぜ“完璧なセキュリティ対策”は歴史上一度も成功していないのか?】〜攻撃と防御の「構造的な非対称性」を知る〜

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サイバー攻撃の被害は、大企業だけの問題ではない。今や中小企業こそ、攻撃者の格好の標的になっている。クラウドセキュリティやウイルス対策ソフトを導入しても、「完璧なセキュリティ対策」は存在しない。では、なぜ守る側がこれほど苦戦を強いられるのか?それは攻撃と防御」のゲームに潜む“構造的な非対称性”にこそ本質がある。本稿では、IT初心者や経営者向けに、完璧なセキュリティが不可能である理由を歴史的な視点と実例を交えながら紐解き、経営としてどのようなリスク管理姿勢が必要かを解説する。

セキュリティの失敗は、技術の失敗ではない。構造的に、守る側が不利なゲームなのだ。

守る側が圧倒的不利なゲーム

防御とは「常に成功しなければならない」が、攻撃は「一度でも成功すれば勝ち」である。この不均衡が、セキュリティ対策の本質だ。たとえば会社の入口すべてに鍵をかけたつもりでも、ひとつでも閉め忘れがあれば侵入される。一方、攻撃者はその「ひとつ」を探すだけで良い。これが、守る側が99の正解を積み上げても、たった1のミスで敗北する理由である。

守る側は“全体”、攻撃側は“弱点だけ”を狙う

企業はシステム、ネットワーク、人、すべてを守る必要がある。だが攻撃者は、従業員のパスワード使い回し、更新されていないソフト、外注先のセキュリティホールなど「一番脆いところ」だけを見つければよい。守る対象は広く、攻撃の入口は狭い。この非対称性が、完璧な防御を永遠に不可能にしている


セキュリティの技術競争では、常に攻撃側が先手を取っている。

攻撃は創意工夫の積み重ね

攻撃者はイノベーションの塊だ。新しい手法、社会の動き、心理的トリックを駆使して防御を突破する。たとえば、コロナ禍では「ワクチン申込」や「給付金申請」を装ったフィッシング詐欺が爆発的に増加した。攻撃は社会の変化に即応するが、防御はルール化・制度化が必要なため、後手に回る。

ゼロデイがある限り完璧は不可能

「ゼロデイ脆弱性」とは、まだ誰にも知られていないソフトの穴であり、パッチも対策も存在しない。これを使った攻撃は、“防ぐ手段がない”状態で始まる。つまり、企業がどれだけ最新の対策を講じていても、「未知の穴」から侵入されるリスクは常に存在するのだ。


守る側は疲弊し、攻撃者は効率化する。コスト構造の違いも非対称性を生んでいる。

攻撃のサービス化

いまやサイバー攻撃は「サービス」として提供されている。“RaaS(Ransomware as a Service)”など、誰でも安価に高度な攻撃を実行できる時代だ。プロの技術者でなくとも、テンプレートを使って簡単に攻撃が可能。一方、防御側は高額なセキュリティツールや人材を継続的に投入しなければならない。

人手不足と運用リスク

「人がいない」こと自体が最大の脆弱性である。多くの中小企業ではIT担当が兼務で、日常業務に追われている。たとえ高機能なファイアウォールを導入しても、ログ確認やアップデートが放置されていれば意味はない「ツールがある=安全」ではなく、「使いこなせるか」が問われるのだ。


過去の事件を見れば、完璧な防御が幻想であることは明らかである。

古典的弱点が今も通用する

「初歩的な設定ミス」「アップデートの未実施」「簡単なパスワード」―こうした原因による情報漏洩やシステム侵入は、今なお後を絶たない。2022年の小島プレス、徳島の半田病院、大阪の医療センターで起きた事件も、VPN機器の脆弱性(アップデート未実施)が原因だった。

技術進化は新たな弱点を生む

生成AIやIoT、クラウドの普及によって便利になった半面、攻撃者にとっては新たな獲物でしかない。「新技術=新リスク」を生むサイクルがある。技術の進化は防御の手間と範囲を増やす


では、中小企業はどうすれば良いのか?答えは「完璧」を目指さず「合理的な安全ライン」を見極めることだ。

“完璧”ではなく“合理的なライン”

IPAが提唱する「情報セキュリティ5か条」(ソフトの更新・ウイルス対策・パスワード強化・共有設定の見直し・脅威の理解)を徹底するだけでも、実はほとんどの攻撃は防げる。まずは「基本を漏らさない」ことが最大の防御となる。

過信こそ最大のリスク

「うちはセキュリティソフトを導入してるから大丈夫」―これは最も危険な思い込みだ。ツールは手段であって目的ではない。「何を守るのか」「どのレベルまで許容するのか」を明確にし、それに応じた運用をすることが必要だ。過信よりも、自社の弱さを知ることが最大の強みになる。


完璧なセキュリティなど存在しない。むしろ「完璧を目指すこと」がコストや判断ミスを招く。セキュリティ対策とは、常に変化し続けるリスクとの“バランスのゲーム”であり、その前提を理解することが経営判断の出発点だ。

中小企業に求められるのは、高価なツールではなく「合理的な理解と判断力」である。そのためには、自社にITの専門知識がなくても、外部のIT顧問やセキュリティアドバイザーといった“相談できる仕組み”を持つことが、もっとも低コストで効果的な防御策となる(参照:「IT顧問のススメ大.pdf」)。

「終わりのないゲーム」だからこそ、味方を持ち、冷静な判断を積み重ねることが、結果として最も強いセキュリティになるのだ。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。
また、お会いしましょ。