【IT投資は“誰から買うか”で決まる】〜 信頼できる担当者を見極める、社長のための実戦ガイド 〜

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中小企業にとってIT投資は、もはや避けられない経営課題となっている。DX、テレワーク、クラウドセキュリティ、サイバー攻撃対策など、多岐にわたる選択肢がある中で、どの製品を選ぶか以上に「誰から買うか」が重要である。IT部門を持たない30~100名規模の企業では、社長が直接判断せざるを得ない場面も多く、誤った選択は高コストかつ運用不能な“宝の持ち腐れ”を招くこともある。本稿では、IT初心者の経営者に向けて「信頼できる担当者の見極め方」を伝授する。単なる製品選定ではなく、成功するIT投資の裏にある“人”の力に焦点を当て、なぜそれが重要なのかを徹底解説する。

  1. なぜ「会社の看板」より「担当者」を見るべきか
    1. 導入後の実務は“担当者”の力量に依存
    2. 看板が大きい=高品質ではない、コストがかかる構造を理解せよ
    3. 実は中小ITベンダーこそ“できること”が多く、柔軟で現場主義
    4. いま目の前にいる“その人”が、成功のカギを握る
  2. 「なぜ?」を説明できる人かどうか
    1. 「なぜ今なのか」「なぜこの案なのか」を筋道立てて語れるか
    2. 提案に数字や実例で補強があるか
    3. 「わかりやすく伝えよう」とする姿勢があるか
  3. 利害を正直に言えるか
    1. 利益相反を隠さず「言える」人こそ信頼に値する
    2. 「ベストではないが運用でこうカバーできる」と言えるか
    3. 正直な開示が“付き合い方”の判断材料になる
  4. ベストでなくても運用で目的達成できる人
    1. 製品の限界を理解した上で「使い方」を工夫できるか
    2. 手順・体制・既存ツール活用でカバーする設計があるか
    3. 不足を前提にした“現場最適化”提案ができるか
  5. 導入後を徹底的に語れる人が信頼できる
    1. 初動90日でつまずくか、軌道に乗るかが明暗を分ける
    2. 運用フロー・引き継ぎ・教育計画を具体的に語れるか
    3. 「導入後の面倒を一緒に見る姿勢」があるか
    4. 「この人なら導入後も付き合える」と思えるかがすべて
  6. まとめ ― 投資の成果は“担当者”で決まる

導入後の実務は“担当者”の力量に依存する

導入後の実務は“担当者”の力量に依存

「○○株式会社」や「大手ベンダー」など、いわゆる“看板がでかい会社”=信頼、という考え方は決して間違いではない。むしろリスク回避の観点では正解とも言える。ただし、ここにひとつの落とし穴がある。大手はその“看板の重さ”ゆえに、リスクを避けた提案・対応になりがちで、運用や現場実務に対して深入りを避ける傾向が強い。

例えば、導入時の打ち合わせでは「そこはやっておきます」と言っていたことも、いざ運用フェーズに入ると「それは保守範囲外です」「別料金になります」と言われることが多い。これは、対応を分業制にしており、営業・設計・運用・保守と各フェーズで担当者が違うため、“前に話したこと”が引き継がれにくい、もしくは引き継ぎが有料という構造のためである。中には「営業が対応するな」と指示されているケースすらある。

看板が大きい=高品質ではない、コストがかかる構造を理解せよ

大手だからできることが多い、という幻想を持ってしまうが、実際には「人件費が高い」「社内調整に時間がかかる」「運用支援の都度見積もりが必要」という現実に直面する。目的が“ITを活用して業務改善したい”であるにもかかわらず、ベンダー側の都合で「やることが増える」「コストが嵩む」「結局、誰も対応してくれない」という結果になることも少なくない。

間接費(管理部門や事務作業、営業支援など)を多く抱える大手は、当然そのコストを価格に上乗せしてくる。たとえば、軽微な設定変更でも「訪問費用」「技術料」「基本料」などの名目で数万円が請求される。製品やサービスの性能ではなく、“組織の仕組み”が料金体系を高くしているという側面がある。

実は中小ITベンダーこそ“できること”が多く、柔軟で現場主義

一方、中小規模のIT事業者は、人数も限られており、営業と技術を同じ人が担当するケースが多いため、提案から導入、運用支援まで一貫して関わる姿勢が強い。「いちいち見積もり」「これは契約外なので対応できません」とは言わず、目的達成を最優先に、柔軟に対応してくれるケースが多い。

もちろん、すべてが無償ではないし、対価を求められることもあるが、その代わり「目的を達成するために必要なことを、ちゃんとやる」という姿勢がある。例えば「この機能は製品にないけど、こうすれば代替できます」「このツールは高いから、既存のExcelでこう組めば同じことができますよ」といった提案が出てくるのも、このタイプの担当者だ。

だからこそ重要なのは、「中小ベンダー=不安」「大手=安心」という思い込みをいったん捨てて、目の前の“担当者”が、目的達成のために何を考え、どこまで付き合ってくれるのかという観点で評価することだ。

いま目の前にいる“その人”が、成功のカギを握る

“誰と一緒にやるか”を決めるということは、プロジェクトの成否を分ける分岐点に他ならない。たとえば、「何をやるか」が同じでも、「誰とやるか」によって、現場に定着するか・挫折するかがまるで変わる。これは中小企業のIT支援現場で、何度も見てきた事実である。

「わからないことを聞けばすぐ答えてくれる」「困ったときにすぐ駆けつけてくれる」「“やれません”ではなく、どうやったらできるかを一緒に考えてくれる」…こうした“顔が見える”“声が届く”“距離感の近い”担当者が、実は最も信頼できる投資先なのである。


提案の背景を合理的に説明できるか

「なぜ今なのか」「なぜこの案なのか」を筋道立てて語れるか

「流行っているから」「他社もやっているから」…こうした理由だけで提案してくる担当者は要注意だ。中小企業がIT投資を判断する際に必要なのは、“自社の事情に合っているかどうか”という視点である。にもかかわらず、「このタイミングでこれを導入すべき理由」を語れない提案者は、ただの“売り手”にすぎない。

たとえば、「業務効率化のためにRPAを導入しましょう」という提案があったとする。なぜ今この業務にRPAなのか?なぜExcelマクロや既存の仕組みでは不十分なのか?導入すれば、誰がどれだけ楽になるのか?…これらに納得のいく説明がなければ、経営者として「Yes」とは言えない。

逆に、「今この業務をRPA化すれば、月30時間の単純作業が削減でき、担当者が営業に回れるようになります」といった、具体的な背景と影響をロジカルに語れる担当者であれば、その提案は“売りたい”ではなく“変えたい”提案である可能性が高い。

提案に数字や実例で補強があるか

「理屈はわかるけど、実際どうなの?」と感じたことはないだろうか?その問いにきちんと答えられるかが、担当者の力量である。たとえば、「このツールを導入した別の中小製造業では、問い合わせ対応の工数が1件あたり10分から3分に短縮され、月50時間の業務削減につながった」といった数字と事例を交えて説明できる人は、現場感を持っている証拠だ。

また、「うちの業界とは違うのでは?」という問いに対して、「確かに業種は違いますが、業務フローは非常に似ており…」と説明できるかどうかも重要だ。例え話を交えて説明することができる担当者は、相手に“伝える努力”をしているということになる。

「わかりやすく伝えよう」とする姿勢があるか

中小企業の経営者の多くは、ITの専門家ではない。だからこそ、「専門用語を並べる」のではなく、「理解できるように説明する」ことが求められる。たとえば、「VPNとは、公共の空間で話す内容を、個室で話すようにする仕組みです」といった比喩が使えるかどうか。これこそが、真に“伝える気がある”人かどうかを見極めるポイントになる。

また、「ちょっと難しいですよね、図にしましょうか?」と自らホワイトボードを使って説明する担当者も信頼に値する。伝わらなければ意味がないという意識を持っているかどうか。これは、その担当者が導入後も「わかるように伝え」「困ったら助けてくれる」タイプかどうかの判断材料になる。


ベンダーの立場上、推奨したい事情があるなら正直に話す担当者は信頼できる

利益相反を隠さず「言える」人こそ信頼に値する

「この製品は当社の販売製品です」「他製品も検討しましたが、営業目標もあるのでこれを推しています」といった利害関係をあえて開示する担当者は誠実である。利害を隠したまま「これは絶対おすすめです」と押してくる担当者より信頼できる。

「ベストではないが運用でこうカバーできる」と言えるか

完璧な提案は存在しない。だからこそ「弱点はこれだが、運用でこう補える」という現実的な補完策を語れるかが評価ポイントとなる。「ベストよりベターで良い」「実運用で成果を出せる」ことに価値がある。

正直な開示が“付き合い方”の判断材料になる

企業としての姿勢は、担当者の言動に表れる。誠実な対応をする人ほど、契約後の運用でも誠意を持って関わってくれる。短期の利益より、長期的な信頼関係を重視している証左である。


完璧なツールは存在しない

製品の限界を理解した上で「使い方」を工夫できるか

中小企業にとって、コストや人材面から“理想のツール”を導入することは現実的ではないことが多い。そうであれば、「どう使いこなすか」が成果を左右する。担当者がツールの運用設計まで含めて提案できるかが鍵だ。

手順・体制・既存ツール活用でカバーする設計があるか

「このツールを導入すればOK」ではなく、「既存の環境を活かし、何をどう設定し、誰がどう運用するか」を説明できる人こそ現場思考である。とくに「人が足りない」中小企業では、この視点が最も重要だ。

不足を前提にした“現場最適化”提案ができるか

「不足をどう補うか」という視点があるかどうかで、担当者の現実感覚がわかる。机上の理想論ではなく、社内で“今ある資源”で成果を出す視点こそ中小企業にとっての現実解である。


契約前に「最初の90日で何をするか」を説明できるか

初動90日でつまずくか、軌道に乗るかが明暗を分ける

IT投資が成果につながるか、それとも“高いだけで使われないシステム”になるか…その分岐点は導入直後の90日間にある。とくに中小企業では、IT専任者がいないのが普通であるため、導入後の設定や運用が現場に丸投げされやすく、そのまま“触られずに終わるシステム”が多発している。

だからこそ、「契約する前から導入後90日間の運用を語れるか」が、信頼できる担当者を見極める最大のポイントとなる。

単に「導入後はサポートしますよ」では不十分だ。「初日に何をするか」「誰に何を教えるか」「どんな手順で定着させるか」まで、細かく語れる担当者であれば、すでにその後の運用まで設計できている証拠である。

運用フロー・引き継ぎ・教育計画を具体的に語れるか

中小企業では「導入=ゴール」ではなく、「導入=スタート」である。ところが、実際の現場では、初期設定の段階でトラブルが発生し、担当者が退職して“誰も使えない状態”になることも少なくない。導入から2週間で「誰もログインしていない」「マニュアルが存在しない」「操作できるのが1人だけ」…これは決してレアケースではない。

そこで重要になるのが、以下のような要素を事前に説明できるかどうかだ:

  • 運用フロー:日常業務にどう組み込むか(例:週次のバックアップをどう行うか)
  • 引き継ぎ体制:誰が主担当・副担当になり、誰に伝えるか
  • 教育計画:初回レクチャー・リマインド研修・動画マニュアルの提供有無など

たとえば、「初期導入時に2時間のハンズオンを実施します。3週間後に習熟度チェック、その後マニュアルのPDF版と動画マニュアルを提供します」といった説明があれば、導入後の安心感は段違いだ。

「導入後の面倒を一緒に見る姿勢」があるか

中小企業にとって、最も恐れているのは「売りっぱなし」である。導入後に「困ったら聞いてください」と言われても、誰に・何を・どう聞けばいいのか分からない、というのが現実だ。

信頼できる担当者は、「聞かれたら答える」ではなく、「こちらから様子を見に行く」「困る前に予防する」というスタンスで接してくる。たとえば:

  • 「導入から1週間後に一度様子を伺います」
  • 「1ヶ月後に運用レビューを行います」
  • 「SlackやChatworkでいつでも相談できる窓口を設けています」

こうした“同伴型支援”があるだけで、導入側の心理的負担は大きく軽減される。逆に言えば、導入後の運用計画やサポート体制について曖昧な担当者は、「売ることが目的」であり、「使えるようにすること」は二の次の可能性がある。

「この人なら導入後も付き合える」と思えるかがすべて

結局、導入前の説明が丁寧であっても、導入後に連絡が取れない、技術者に丸投げ、追加費用ばかり請求される…そんな体験をした中小企業経営者は少なくない。だからこそ、目の前の担当者が「自社に寄り添ってくれるか」「運用まで見据えているか」を見極める必要がある。

中小企業は「体制」ではなく「人」で支援される。導入時のトラブルを想定し、「そこまで言ってくれるのか」と思えるほどに具体的なアフター対応を話してくれる担当者なら、間違いなく“当たり”である。


今日からできる3つの見極めアクション

IT投資の成果を分けるのは、製品でも会社規模でもなく、結局は“誰が担当するか”である。そして、その見極めのために必要なのは、以下の3つの視点だ。

  • 「なぜ?」を合理的に語れること
  • 利害を隠さず開示できること
  • ベストでなくても運用で目的達成する設計があること

これらを備えた担当者こそが、社長にとって最も信頼できるITパートナーだ。今日から実践できる行動として、次の3つをお勧めする。

  • 商談で「なぜ?」を3回聞いてみる
  • 提案の利害がないかを確認する
  • 導入後90日間の運用プランを必ず聞く

これができれば、IT投資の失敗は大きく減るだろう。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。
また、お会いしましょ。