ITツールが混在した中小企業はどう立て直すべきか?現状整理と運用設計が再構築の鍵

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中小企業のIT環境は、拡張と変化の連続によって、目的も統制もない「ツールの混在状態」に陥っている。Google Workspaceを使いながらもZoomで会議をし、LINE WORKSとNotionで情報共有し、紙で有給申請を行う……このような運用は一見まわっているように見えても、管理コストやセキュリティリスク、業務効率に多大な悪影響を及ぼしている。重要なのは、新たなツールを導入することではなく、今ある混在状態をどう俯瞰し、整理し、運用設計を見直すかである。

多くの中小企業ではIT専門人材も不在で、ITベンダーの提案に従って導入してきた結果、機能が重複し管理が煩雑になり、情報の一貫性が失われている状況が珍しくない。本記事では、このような「混在」したIT環境における主要な問題点を整理し、どう再構築していくべきか、その視点と方法を提言する。特に、外部の専門家「IT顧問」の重要性にも焦点をあて、中小企業におけるIT再設計の現実的な道筋を示す。

すでに導入されたITツールは、現場のニーズや個々の判断で選ばれてきたケースが多い。その積み重ねが、気がつけば「混在」「重複」「分断」を引き起こしている。以下に代表的な3つの課題を挙げる。

情報が分散し、共有が困難になる

複数のツールを業務ごとに使い分けていると、情報がツール単位で閉じた状態になりやすい。たとえば、営業部門ではGoogle Workspaceのスプレッドシートで案件管理をしている一方、製造部門はExcelで在庫管理をしている。そして、プロジェクト管理にはNotionを一部のチームだけが使っている。さらに、口頭での共有やLINE WORKSなどのチャットで伝達される情報も加わる。

このような状況では、社内全体としての情報共有が成立しない。必要な情報がどこにあるのか不明確となり、「探す時間」が増え、「抜け・漏れ」が頻発する。これは単に非効率なだけでなく、顧客対応や意思決定に重大な支障をきたす。情報が分散されることによるセキュリティリスクの増大も無視できない。

ツールの利用コストが見えないまま積み上がっている

クラウドサービスの多くはサブスクリプション型で提供され、人数分のライセンスが必要になる。Microsoft 365やGoogle Workspaceのように、ユーザーあたりのコストが定額でも、実際に使われていない機能やストレージがあっても料金は発生する。さらに、ストレージ不足や容量制限により、追加課金を求められることも多い。

「本当に必要なライセンス数が把握されていない」「契約内容が最適化されていない」「無料期間後にそのまま有料移行されて放置されている」などの事例は中小企業では日常茶飯事である。使いこなせていないにも関わらず支払っている無駄なコストは、年間で数十万〜数百万円に上るケースもある。

統一された管理体制がなく、セキュリティも崩壊

ツールが乱立し、それぞれのアカウント管理が別々であると、誰がどのデータにアクセスできるのか把握できなくなる。パスワードの管理が甘くなったり、退職者のアカウントが残っていたりすることも珍しくない。個人で契約したツールが業務に使われており、会社としての制御が効かない「シャドーIT」の温床にもなりうる。

このような無秩序な環境では、内部からの情報漏洩や外部からのサイバー攻撃に対して非常に脆弱となる。情報セキュリティ対策として「何をどこまでやっているのか」「何が抜けているのか」が見えないということが、最も大きなリスクである。

もはや「どのツールを入れるか」を検討する段階ではない。今あるツールの使われ方、機能の重複、運用実態を一度ゼロベースで見直し、再設計する視点が求められている。

現状の全体像を“見える化”する

まず行うべきは、現在使用している全ITツールの棚卸しである。これは、単にリストアップするのではなく、

棚卸し項目

・使用者(部署・個人)
・使用目的(業務の種類)
・使用頻度
・機能の重複
・コスト(ライセンス料、ストレージ費など)

といった項目を付記して、ツールと業務の関係性を整理することが必要である。これにより、現場での“実態”が可視化され、「どこがムダなのか」「どこに問題があるのか」が明確になる。

全体最適を軸に、整理・統合の指針を持つ

見える化によって現状が把握できたら、次に行うのは「集約」と「撤退」である。これは現場に抵抗が出やすいが、運用の統一がセキュリティ・管理・教育コストの大幅削減につながることを理解する必要がある。

たとえば、Google WorkspaceとMicrosoft 365の併用は必要か?SlackとLINE WORKSは重複していないか?Notionの使用は本当に全社で必要か?…こうした視点でツールを精査し、「残すツール」と「手放すツール」を経営判断として選定する必要がある

再構築は専門家とともに進める

このような再設計には、ITの技術知識と、組織運営のバランス感覚を兼ね備えた専門家が必要である。特に中小企業では、社内にそのようなスキルを持つ人材がいないケースが多く、ITベンダーに相談するとまた新しいツールの提案をされてしまう…という悪循環に陥る。

そこで注目すべきなのが「IT顧問」という第三者的な立場である。IT顧問はツールを販売するベンダーとは異なり、製品を売らず、中立的な立場から再設計を支援する。情報の整理、業務とITのマッピング、選定基準の策定、運用設計、教育・定着化支援までを一気通貫でサポートしてくれる。

IT顧問の役割は、「何を導入すべきか」ではなく、「どう運用を再設計し、定着させていくか」にある。

専門家がいることで、意思決定に自信が持てる

たとえば法律や税務であれば、専門家に聞けば答えが出る。ITにおいても同様だ。判断に迷うとき、信頼できる第三者の視点があれば、「納得」と「安心」によって、停滞していた意思決定が動き出す。人間の行動原理は感情に根ざしているため、この「安心」は意思決定において非常に大きな推進力となる。

運用の仕組み化が導入効果を最大化する

ツールは「入れること」よりも「使い続けること」が重要である。使い続けるためには、属人化を防ぎ、マニュアルとルールを整備し、更新・維持できる体制を持つこと不可欠だ。IT顧問はこの「運用体制の整備」まで踏み込んで支援するため、単なる導入支援とは次元が違う。

中小企業の多くは、業務の都度で最適なツールを導入してきた。その結果、「機能の重複」「情報の分断」「セキュリティの低下」「コストの肥大化」という構造的な問題を抱えるに至っている。

もはや新しいツールの導入や一部の改善では解決しない。必要なのは、“現状のIT環境全体を一度立ち止まって見直し、運用構造を再設計する”というアプローチである。

そのためには、ベンダーとは異なる立場から課題解決を支援する「IT顧問」のような専門家の伴走が必要不可欠だ。再構築の第一歩は、「現状把握=見える化」から。そして最終的には、“どう運用し、継続していくか”を設計し直すことが、真の意味でのIT最適化への近道である。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。
また、お会いしましょ。