【 経営者が陥る「支配の心理」】〜感情をマネジメントしようとする上司が、いちばん感情的になる 〜

emotional-management-leadership Management

「感情を抑えられる上司こそ優秀」…そう信じている経営者や管理職は多い。しかし現場では、感情を“抑えているつもり”の上司が、実は最も組織に悪影響を及ぼしているケースが少なくない。感情をコントロールする姿勢自体は美徳かもしれないが、それが「支配の心理」と結びつくと、部下の成長を妨げ、職場の信頼関係を崩壊させる。中小企業におけるマネジメントの現場では、ITや業務プロセスだけでなく、こうした「人間の心理構造」に対する理解が欠かせない。本稿では、感情とリーダーシップの本質に迫り、「感情を理解し、伝え合う組織づくり」がいかに経営にとって重要かを解説する。

  1. 上司の「感情マネジメント」が、組織を静かに壊していく
    1. 「気に入らない部下」への無視・情報遮断・態度の変化
    2. 指示を出さない、話しかけない――それは“指導”ではなく“制裁”
    3. 部下側の心理:「なにが悪いのかわからない」「合わせるしかない」
  2. 「気づけよ」という無言の圧力は、教育ではない
    1. 無視や冷遇を“教育”と勘違いする上司の心理
    2. 感情を抑えようとする上司ほど、爆発のタイミングを見誤る
    3. 「冷静に見える上司」が、実は最も感情的で危ういこともある
  3. 支配欲の裏にある「孤独」と「承認されたい心」
    1. 経営者や上司ほど、実は“誰にも理解されない孤独”を抱えている
    2. 「誰もわかってくれない」という思い込みが支配欲に変わる
    3. 真のリーダーシップは、感情を押し殺すことではなく「対話で伝えること」
  4. 経営者・管理職が持つべき「感情の自己統制」
    1. 「叱る」「注意する」「怒る」を区別できる人が成熟した上司
    2. 感情を整理する3ステップ
  5. 「上司の機嫌」をマネジメントする組織は伸びない
    1. 忖度文化が定着すると「考える人」がいなくなる
    2. 「イエスマン」ばかりの職場では、問題が表に出てこない
    3. 経営者がやるべきは、“支配”ではなく“信頼のデザイン”
  6. まとめ ― 感情を抑えるより、感情を理解できる人が信頼される

「感情を抑えること」が組織に悪影響を与える構造を理解する必要がある。

「気に入らない部下」への無視・情報遮断・態度の変化

一見冷静に見える上司が、実は特定の部下に対して態度を変える。無視する。話しかけない。雑談の輪に入れない。こうした「静かな制裁」は、職場の空気を濁らせる。しかもこれを本人は“感情を出していない”と思い込んでいるケースが多い。だが、部下にとってはその態度の変化こそが「感情」の表出である。情報遮断や態度変化は、明確な言語による指導よりもはるかに破壊力がある

指示を出さない、話しかけない――それは“指導”ではなく“制裁”

「何も言わない」という選択を、“指導の一環”だと捉えている上司は少なくない。「自分で気づけ」という意図かもしれないが、それは教育ではなく一種の“制裁”だ。指示がなくなる。進捗確認もなくなる。相談しても反応が鈍い…これは部下にとって、非常に強い心理的プレッシャーとなる。部下が萎縮し、ミスを恐れて動けなくなることで、組織全体の生産性は確実に低下していく。

部下側の心理:「なにが悪いのかわからない」「合わせるしかない」

部下にとって最も苦しいのは、「なぜ無視されているのかがわからない」状態である。原因不明の扱いに、ただ「機嫌を取る」以外の選択肢がなくなると、組織は上司の顔色を見る文化に染まり始める。これは“感情を抑えているつもり”の上司が、自身の不満や不快感を言語化できないまま、部下に態度で圧をかけている典型だ。


「察する力」や「空気を読む」ことを美徳とする文化の危うさを再認識する。

無視や冷遇を“教育”と勘違いする上司の心理

上司が部下に冷たく接する背景には、「自分のやり方が正しい」という強い信念があることが多い。さらに「自分が若いころに苦労してきたから、お前も耐えろ」といった昭和的思考も根強い。こうした意識は、“自分を乗り越えろ”という気持ちからくるようで、実態は「俺のやり方に従え」という支配願望である。

感情を抑えようとする上司ほど、爆発のタイミングを見誤る

「感情を出さないように」と我慢を続けた結果、ある日突然、激しく怒鳴る。物に当たる。感情が爆発する。これは、感情をマネジメントできているのではなく、感情を“抑圧”した結果にすぎない。本当のマネジメントとは、感情の存在を認め、それを冷静に整理しながら相手に伝える力である。

「冷静に見える上司」が、実は最も感情的で危ういこともある

冷静さを装い、言葉少なく「感情を出さない」上司ほど、実は非常に感情的である場合がある。怒鳴ったり泣いたりしないから感情的ではない、というのは大きな誤解だ。態度や空気で圧をかける行為そのものが「感情の支配」であり、それが部下を精神的に追い詰める原因になっている。


支配の心理は、上司自身の「満たされなさ」から生まれていることが多い。

経営者や上司ほど、実は“誰にも理解されない孤独”を抱えている

経営者や管理職は、孤独だ。意思決定の重圧、結果責任、従業員の生活…。表には出さなくても、心の中では「誰にも本当の自分はわかってもらえない」と感じている。そんな想いが強くなると、「自分のやり方に従わせたい」という欲求が芽生える。

「誰もわかってくれない」という思い込みが支配欲に変わる

「わかってもらえない」孤独感が限界を超えると、それは“強制”という形で表れる。「敬え」「認めろ」「従え」…それらはすべて、承認されたいという心の裏返しだ。承認されることなく積もった感情は、やがて「支配」へと変質していく。

真のリーダーシップは、感情を押し殺すことではなく「対話で伝えること」

感情を見せることは、弱さではない。むしろ誠実さである。感情を持ちながらも、それを整理し、対話によって伝える。これこそがリーダーシップであり、信頼を生むマネジメントである。


“感情を抑える”ではなく“感情を扱える”ことが、成熟した上司の証である。

「叱る」「注意する」「怒る」を区別できる人が成熟した上司

「怒る」と「叱る」は違う。「怒る」は感情の発露、「叱る」は相手の成長を意図した行為である。冷静に言っているつもりでも、自分の安心や優位性のために伝えているなら、それは“怒り”に分類される。

感情を整理する3ステップ

  1. 「何に反応したのか」を言語化する


→ 部下の言葉、行動、表情の何に引っかかったのか?を明確にする

  1. 「それは事実か、感情か」を切り分ける


→ 実際に起きた出来事と、自分の感じたことを区別する

  1. 「伝える目的は相手の成長か、自分の安心か」を問う


→ その言葉が「教えようとしている」のか「怒りたいだけ」なのかを自問する


上司の感情が職場の空気を支配すると、優秀な人材からいなくなる。

忖度文化が定着すると「考える人」がいなくなる

誰もが上司の機嫌を伺う組織では、意見は出なくなる。「どう思いますか?」と問われても、「正解はどっちだろう」と考えるだけで、本音を言う人はいなくなる。これは、創造性も改革力も失われる非常に危険な兆候だ。

「イエスマン」ばかりの職場では、問題が表に出てこない

問題が起きても、報告されない。予兆が見えても、黙っている。なぜなら「余計なことを言うな」と言わんばかりの空気が職場を支配しているからだ。こうした職場では、経営判断を誤るリスクが高まる。

経営者がやるべきは、“支配”ではなく“信頼のデザイン”

感情で人をコントロールするのではなく、信頼をベースに仕組みで動く組織を作るべきだ。信頼とは、言葉を尽くして説明し、誤解があればすぐに修正する対話の積み重ねでしか築けない。


経営者・管理職に求められるのは、感情を消すことではなく、扱える力だ。自分の感情に無自覚なまま“冷静”を演じる上司は、部下から最も信頼を失いやすい。感情を理解し、言語化し、対話に変えることが、リーダーとしての本質的な力である。感情を見せることは、弱さではなく“誠実さ”。理性と感情のバランスこそが、信頼される経営の土台である。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。
また、お会いしましょ