DXはまだ早い?まずは業務フローの整理整頓からスタート!

Issue

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、中小企業にとって重要なテーマとなっているが、いざ取り組むとなると、どこから始めるべきか迷ってしまうケースが多い。多くの経営者は、DXが必要であることは理解しているものの、具体的なステップや準備が不十分で、うまく推進できないことがよくある。特に、中小企業においては、DXの前に業務フローの整理整頓が不可欠だ。本稿では、DXの効果を最大化するために、まず業務プロセスの徹底した見直しと整理から始めるべき理由を解説し、具体的なステップを提案する。

DXの推進を考える前に、まず現状の業務プロセスを見直すことが重要だ。中小企業では、日常業務がルーティン化し、特定の従業員が長年にわたり同じ業務を行っているため、プロセスが複雑化していることが多い。単純にIT化・デジタル化することで効果が得られるとは限らない。業務プロセスの整理とは、人の手によって実施すべき業務と、デジタル化することにより効率化する業務を明確に分けることを意味する。これが見えてない段階で「DX導入」という概念を持ち出すことが、具体策の検討を阻害する要因となっている。

 業務が属人的である

業務プロセスが特定の従業員に依存していることが多く、マニュアル化されていないことが問題だ。例えば、長年勤めている従業員が知っている情報が、その人にしか分からない「属人的」な業務となっている場合、退職や異動時に大きな影響が出る。このような属人的業務は、業務の効率化を阻害するだけでなく、DX推進の大きな障壁となる。

ただ、属人的と言うと聞こえは悪いが、長く勤めてくれたその従業員によって支えられてきたことも事実であろう。経営者としては、バッサリと切り捨てるような業務変革をすることに対して心理的にも懸念となるだろう。お互いの認識を合わせて協力しながら業務改善をしていくことが重要な鍵となる。

手作業に依存している業務

特に、請求書処理や在庫管理などは手作業が多く、効率が悪いことが少なくない。手作業による業務は時間がかかり、ミスが発生しやすい。さらに、これらの手作業をDXによってデジタル化・自動化すれば、時間の節約とミスの削減が期待できる。ただし、そのためにはまず現在のプロセスを整理し、どの業務をデジタル化するか明確にすることが求められる。

実際に筆者が見たある中小企業では、納品書・請求書を発行し(印刷する)、それをスキャンしてpdfにして本社から遠隔拠点の営業マンにメールをしていた。印刷するということと、pdf化は工程が同じである。紙にアウトプットする必要はないはずだ。だが、長年の慣習なのかそのような業務プロセスになっているのだ。時間も紙もプリンタートナーも無駄であるし、紙の保存場所という無駄なコストも発生することになる。属人化がもたらすデメリットは、無駄が無駄として認識できなくなり、おかしなことでも「当たり前」で「普通」という状況になってしまうことに問題がある。

プロセス間の連携不足

多くの中小企業では、部署ごとに独立して業務を進めており、プロセス間の連携が不足している。この結果、情報がスムーズに共有されず、業務が遅延したり、重複作業が発生したりする。DXによるシステム導入は、こうした連携不足を解消する大きなチャンスだが、その前にどのように各部署が協力し合い、情報を共有するか、プロセス全体を見直す必要がある。

フローチャートで業務を整理すると、いくつも「IF」という分岐点があり、戻りが多くなり同じルーティンを繰り返しているなど、びっくりするような無駄が可視化されることになるのではないか。慣れてしまうと、手早く作業を進められるので時間がかかって無駄であるという認識も無くなっていくのだろう。しかし、それは今いる従業員だけが満足しているものであり、新たな従業員には疑問であり負担に感じることもあるだろう。経験値は大事な財産ではあるが、人に依存するものは極力無くしていくべきだ。

DXに取り組む中小企業の多くが、いくつかの共通した課題に直面している。特に、時間、リソース、人材、そしてDXに対する理解の不足が障壁となっている。

人材がいない

中小企業では、DXを推進するためのITの専門知識を持つ人材が不足していることが多い。しかし、社内に専任のITスタッフがいなくても、外部のITコンサルタントやDX支援企業と連携することで、DXの進行をスムーズに進めることができる。また、経営者自らがIT知識を身につける努力も大切だが、すべてを自力で行う必要はない。知識も経験もないのに、自分で理解している範囲内で実行しようとするから、できない理由が山ほど出てくるのだ。信頼できる外部リソースをうまく活用することで、スムーズにDXを進めることが可能であろう。専門分野については専門家に依頼し、経営者はそれが自社にとって有益かを判断するという立ち位置にいれば良い。

DXの知識不足

「DXとは何か」「自社にとってどのような利点があるのか」を明確に理解できていない企業が多い。メディアやセミナーでDXの重要性は強調されているが、具体的にどのように進めればよいかが分からないため、迷走する企業が多い。まずは経営者自身がDXの基本を理解し(技術的な要件ではなく、自社が向かうべき方向や、やりたいことを実現するために、DXという手法が適切かどうか判断できること)業務フローの整理整頓を通じて自社の現状を把握し、具体的なDX施策に取り組むことが必要だ。

時間が足りないという誤解

人材もいなくて、知識もない…よって、DXは「時間がかかる」「忙しくて取り組む余裕がない」と、言い訳のような問題をあげる経営者の声をよく耳にする。しかし、実際には業務プロセスの整理と自動化が時間の節約につながる。時間を生み出すためのDXなのに、時間を奪われるDXと認識するのは、誤解である。できるかどうかではなく、やるかどうか…経営者のリーダーシップと腹づもりが推進できるかどうかにかかっているのだ。

DXの成功は、基礎となる業務プロセスがどれだけ整理されているかにかかっている。無秩序な状態でデジタル化を進めると、かえって効率が悪くなる危険性がある。逆に手間がかかる、仕事がやりにくくなったなど、従業員のモチベーション低下に繋がる恐れがあるため慎重に検証を重ねた上で実施しなければならない。

無駄な作業を減らす

業務フローを見直すことで、現在行われている無駄な作業を削減できる。例えば、手作業によるデータ入力や、複数の部署で同じデータを重複して処理している場合、これを自動化することで大幅に時間を短縮できる。こうした単純作業は、プロセスの改善により、DX導入後の効果が格段に向上する。

デジタル化しやすい部分を明確にする

業務プロセスを整理することで、デジタル化しやすい部分がどこにあるのかが見えてくる。全業務を一度にデジタル化しようとするのではなく、まずは自動化の効果が高い部分から取り組むことが重要だ。例えば、経理処理や顧客管理など、日常的に発生する作業を優先的にデジタル化することで、経営の効率化が一気に進むことになるだろう。

経営判断がしやすくなる

整理された業務プロセスは、企業の現状を可視化し、経営者が的確な判断を下すための情報を提供する。例えば、業務の進捗状況や生産性を定量的に把握することで、経営戦略を柔軟に変更したり、新たな取り組みを早期に判断することができる。DXの効果を正確に評価し、適切にフィードバックを行うためには、こうした業務の可視化が欠かせない。

今まで見えていなかったことも、見えてくる可能性は大だ。経営者が隅々まで事細かに把握する必要はないし、そうなれば従業員も及び腰になるであろう。だが、戦略上、必要なことが可視化されることは企業にとっても従業員にとってもその恩恵は大きなものとなるだろう。

業務プロセスを整理するためには、段階的にアプローチすることが求められる。以下に、その具体的なステップを紹介する。

1. 業務フローの可視化

現状の業務フローを全体的に見渡すためには、まずは全業務をフローチャート化することが重要だ。各部門がどのように業務を進めているのかを図で示し、手順やプロセスの重複がないか、効率化の余地がないかを確認する。特に、属人的な業務や手作業に依存している部分を明確にすることが、後の改善に繋がる。

2. 問題点の洗い出し

可視化された業務フローを元に、どの部分に問題があるかを確認する。手作業が多くミスが発生しやすい部分、時間がかかりすぎている工程、複数の部署で無駄なやりとりが発生している箇所など、具体的な問題をリストアップし、改善の優先順位を決める。

3. 優先順位をつけた改善

改善を行う際は、一度にすべてを解決しようとせず、優先順位をつけて段階的に進める。特に、すぐにデジタル化できる部分から着手するのが効果的だ。例えば、顧客管理システムや経理システムの導入は比較的簡単に始められ、すぐに成果が見えやすい。また、各ステップでどれだけの時間が削減されるか、どれだけの労力が軽減されるかを具体的に測定することで、次の改善ステップへと繋げていくことができる。

中小企業のDX推進には、経営者の理解と積極的な関与が欠かせない。業務プロセスの整理とDX推進において、経営者がどのように関与すべきかを考えてみよう。

DXは経営戦略の一環である

DXは単なるITの導入やデジタル化ではなく、経営戦略の一環として捉えるべきだ。経営者が自社の成長を見据えた上で、業務の効率化や新しいビジネスモデルの構築にDXを活用することが求められる。特に、中小企業では経営者の判断が企業全体に与える影響が大きいため、DXの目的やゴールを明確にした上で、具体的な戦略として進める必要がある。

従業員の意識改革

DXを成功させるためには、経営者だけでなく従業員の意識改革も重要だ。新しいツールやシステムを導入する際に、従業員がそれを受け入れ、積極的に活用しなければDXの効果は半減してしまう。そのためには、経営者自らがDXの重要性を従業員に伝え、導入後のトレーニングやサポートを充実させることで、従業員の協力を得ることが必要だ。

経営者がリーダーシップを発揮する

経営者がDXの推進をリードすることで、組織全体が一丸となって取り組む姿勢が醸成される。具体的には、定期的にDXの進捗を確認し、成功事例を従業員に共有することで、DXへのモチベーションを高める。また、失敗があってもそれを学びの機会とし、改善を続けることで、企業全体が柔軟かつ前向きな姿勢でDXに取り組むことができる。

中小企業にとってDXは、企業の成長や競争力を高めるために不可欠な取り組みである。しかし、DXを成功させるためには、まず業務フローの整理整頓が重要な第一歩だ。現状を可視化し、無駄を省き、デジタル化の基礎を固めることで、DXの効果を最大限に引き出すことができる。また、経営者がリーダーシップを発揮し、従業員と一体となって進めることで、企業全体がDXによって飛躍的に成長する可能性がある。今こそ、準備を整えて着実にDXを進める時だ。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。
また、お会いしましょ。