中小企業がデジタル化を進める際には、業務効率化や競争力の向上を目指してIT製品の導入を検討するが、その過程でさまざまな課題に直面する。特に多いのが、ツールの選定ミスや導入後の運用の失敗である。こうした失敗を回避し、成功に導くためには、業務分析と数値化を基盤にした適切な計画が必要になる。また、現場のITリテラシーや運用体制の整備も重要な要素となる。本稿では、その問題を解決するための視点として「IT顧問」の力を借りて効率的かつ効果的なデジタル改革を進めるための秘訣を詳しく解説する。
現状分析と目標設定:デジタル化の基盤を作る
デジタル化を成功させるための第一歩は、現状を的確に把握し、目標を具体的に設定することである。このプロセスを疎かにすると、期待外れの結果に終わる可能性が高い。と言えば、正論と聞こえるだろう。だが、実際に現状把握に時間を費やす中小企業は少ない。ツールの選定からとりかかることが多く、それが失敗への第一歩へと繋がるのだ。本ブログでも「現状把握」という言葉を用いて様々な角度から発信をしているのだが、今一度その重要性について解説する。
数値で捉える業務の重要性
業務プロセスを数字で捉えることは、デジタル化の成否を分ける重要なポイントだ。たとえば、以下のような具体的な要素を可視化することで、改善点が明確になる。
これらのデータがあれば、どの部分をデジタル化で改善すべきかが見えてくる。たとえば、営業プロセスで訪問件数を増やすためには、現在の件数や成約率を基に効率を上げる方法が考えられる。このようなアプローチにより、目的を明確にし、無駄を排除することが可能になる。
以下の「IT顧問のススメ」は小冊子程度の文章量の読み物だが、数値化については詳細を記述してあるので是非、一読していただきたい。
現状分析が不十分な場合のリスク
現状分析をせずにデジタル化を進めると、以下のような問題が発生することが多い。
これらのリスクを避けるためにも、現状を定量的に把握し、明確なゴールを設定することが求められる。要は「何のために?」「何をどうするための?」IT導入だったのかを明確にしておくことが重要なのだ。ツール選定に捕らわれてしまうと、導入そのものが目的化してしまうことになりかねない。導入後は、使うことが目的…となってしまう。手間や手順が増えただけでメリットを感じられない従業員が増えてしまうという心理的な非効率が生じることにもなる。IT導入は働く環境を整備するためのものなので、従業員の負担になってしまっては本末転倒だ。
IT顧問を活用した分析のメリット
中小企業においては、現状分析を具体的にどういう手順で実施するのか?そのノウハウや経験値を持つ社員が少ない場合が多い。なにより、自分の業務がある中でそのようなことをやっている“ヒマ”(時間)がない。ここで役立つのがIT顧問の存在だ。IT顧問は、以下のような支援を提供する。
たとえば、物流業務をデジタル化する場合、現状の荷物取り扱い件数や配達までの平均時間を調査し、それを基に自動化ツールの導入効果を算出する。このプロセスを効率よく進めるには、IT顧問の支援が不可欠だ。IT顧問はツール導入などIT化することを目的に業務分析をすることはない。IT化以外の選択肢や対策が有効と判断するとそれを経営者へ伝える。ITベンダーとの違いはここにある。
ツール選定と社員教育:導入の鍵
デジタル化を進める上で、ツール選定は非常に重要なプロセスである。適切なツールを選び、それを現場で活用できるようにするには計画的なアプローチが求められる。
適切なツール選定のポイント
ツール選定では、以下の3つの視点で検討することが重要である。
たとえば、営業支援ツールを選定する場合、営業担当者が日常的に利用しやすいインターフェースであることが重要だ。スマートフォンが使えるのか?PCが必須となるのか?…文字入力が多くなるのか?….等々…何をもって利用しやすいと判定するかも事前の計画に含まれる要素となるだろう。また、ツールが自社の営業プロセスに合致しているかを確認する必要がある。ツールに業務を合わせて…というようなことがあっては負担が増えるだけとなる。

筆者も営業支援ツール導入を指示され(ツールは既に決定していた)どのように運用するか具体的に検討した経験がある。が、「代理店販売」というプロセスを考慮した製品でなかったために、制約が多く、入力の手順や手間が増えることになり私が下した結論は「こんなもん使えるか!」ということである。営業を管理するためのツールという側面が強かったという印象もあり、仕事がおもしろくなくなる…個人的にはそう感じた。当然、導入は見送りになった…
社員教育と導入後のフォロー
ツールの効果を最大限に引き出すには、導入後の教育とサポートが不可欠だ。具体的には以下のステップを計画的に進める。
IT顧問はこのプロセスにも関与し、教育内容やモニタリング体制の設計をサポートする。これにより、社員が新しいツールを効果的に活用できるようになる。ここでは「導入後」という視点で解説をしているが、現実的には導入前の「論理検証」をしておくことが欠かせない。業務プロセスを把握して、実際にオペレーションをする要員のITリテラシーも考慮する必要がある。ITアレルギー的な年配社員がいて、反発する…という現実もよくあるが、個人的な主観による反発まで考慮する必要はないと考えるが、なるべくシンプルなものを導入した方が良い。
何かを操作する時、前提条件がある(〜を設定しておく、〜を選択した状態で…)ようなツールの場合、ITリテラシーが低い従業員はなかなか使いこなせず、意図しないところに情報が蓄積されてしまうということになってしまうかもしれないのだ。
セキュリティ対策を見直す
デジタル化が進むと同時に、情報セキュリティの重要性が高まるのは必然だ。特に中小企業では、限られたリソースで効果的な対策を講じる必要がある。
リスクの特定と優先順位付け
業務プロセスを見直し、セキュリティ上のリスクを明確にする。たとえば、以下のような項目が挙げられる。
IT顧問はこれらのリスクを包括的に評価し、優先順位をつけて対策を講じるサポートを行う。何をどこまでやるのか…ここを見極めることが中小企業では難しいとされる。セキュリティ対策のために可用性を欠くようなことになれば、逆効果になる。自社に見合った対策を選択することがなにより重要となる。持続的に運用ができないのであれば、その対策はほとんど無意味なものとなってしまう。
ツール不要の低コスト対策
セキュリティ対策は、必ずしも高価なツールに頼る必要はない。たとえば、以下のような運用改善で多くのリスクを軽減できる。
これらの施策を適切に組み合わせることで、低コストで効果的なセキュリティ対策を実現できる。
まとめ:IT顧問とともに着実なデジタル化を
デジタル化は単なるIT製品の導入ではなく、現状分析、ツール選定、社員教育、セキュリティ対策といった一連のプロセスを計画的に進めることが求められる。このプロセスでIT顧問の支援を受けることで、専門的な知識と客観的な視点を活用し、最小限のコストで最大の効果を得ることが可能になる。
中小企業にとって、デジタル化の成功は競争力の強化や持続可能な成長につながる。なるべくコストを抑えて…この心情は理解できる。だが「IT顧問」に費用が発生することは無駄、うちにはそんな余裕はない…と、思われるのであれば、逆にIT顧問を採用することが必要最低限で効果的なIT投資へと繋がることになるとご理解いただきたい。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
また、お会いしましょ。