中小企業の多くはIT専任担当者が不在で、経営者や兼任担当者が試行錯誤を重ねながらIT活用に取り組んでいる。一方で、急速に進化するAI技術は業務効率を劇的に向上させる可能性を秘めており、「どのAIを、どのように活用するか?」という重要な課題にも直面している。導入方法を誤れば、かえってコストが増大するリスクもあるため、慎重な検討が求められる。
今回の事例では、IT顧問として活動する筆者が、低コストでAIを活用した業務改善策を提案し、従来の手作業から大幅な効率化が期待できる道筋を示した(※現時点では導入はまだ進行中で、効果は検証段階)。本稿では、ベンダー推奨の高コストなシステム導入に懐疑的だった経営者が、IT顧問の助言を受けることで適切なAI導入の方向性を見出した経緯を紹介し、さらにAI導入がもたらす変革と、それを最大限に活かすためのIT顧問の役割について詳しく解説する。
AI導入が中小企業にもたらす業務効率の劇的向上
AI技術はもはや大企業だけのものではない。適切に活用すれば、中小企業の業務も劇的に効率化できる。しかし、誤った導入はコストの無駄となるため、業務分析と整理、ITの利活用について知識と経験があるIT顧問などの専門家の適切な支援が不可欠である。
AI活用の可能性:単純作業からの解放
AIは、これまで人手で行っていた単純作業を自動化する力を持っている。今回の事例では、納品書をデータ化し、請求書との照合を行う業務が大きな課題となっていた。毎月2000枚以上の納品書を手作業で確認することは、生産性を著しく低下させる要因となっていた。担当者の生の声としては「面倒で、これをやるたびに気分が滅入ってしまう…」これをなんとか解消できないか…日々、そう思っていたとのこと。
この業務を効率化するため、AI OCR(光学文字認識)を活用し、スキャナで読み込んだ納品書のデータを自動抽出する仕組みを提案。さらに、AIを活用したデータ照合機能を組み込み、請求書との整合性チェックを自動化した。その結果、これまで数十時間かかっていた作業が、わずか数分で完了するようになった。
AI導入の課題:高額な投資と導入ハードル
AIによる業務効率化は魅力的だが、市場に出回るAI OCRシステムは数百万円以上の導入費用がかかるものが多い。さらに、適切なAIモデルを選定し、業務フローに組み込むにはITスキルが必要となる。
実際に、ITベンダーに相談すると「このAIシステムを導入すれば解決できます」という提案がなされる。しかし、AIの活用方法や実際の業務運用まで考慮されていない場合が多く、結果として「導入したが使いこなせない」「期待したほど業務が楽にならない」という事態に陥ることがある。筆者が説明を受けたシステムは、効果は期待できるであろうものであった。
しかし、このシステム導入は300万円〜という費用であり、「〜」ということは要件によっては、積み上がる可能性があることを示唆している。効果が期待できるかもしれないが、当該企業の規模からするとあまりに高いハードルであり、検討を断念せざるを得なかった。
IT顧問による現実的なAI導入の実現
本事例では、IT顧問が介入し、「AI OCRは本当に必要なのか?」という視点から現状を分析した。結果、必ずしも高額なAIシステムを導入せずとも、クラウドサービスのAI OCRを活用し、Googleスプレッドシートの関数や自動化ツールを組み合わせることで、数万円程度のコストで同等の業務効率化を実現できることが調査・検証で判明した。
IT顧問は特定の製品を販売する立場ではないため、「どのAIを、どう使うのが最も費用対効果が高いのか?」という視点でアドバイスをする。俗に言うスモールスタートという観点で、運用ノウハウが蓄積されてきたら次のステップで、より機能性の高いシステム導入へと繋げていくことを推奨する。過剰投資、無駄をなるべく回避するための重要な視点である。
AI導入を成功させるためのIT顧問の役割
中小企業がAIを効果的に導入するには、IT顧問の支援が不可欠である。AI導入には「選定」「実装」「運用」の3つのフェーズがあり、それぞれの段階で専門的な知識が求められる。
AI導入の第一歩:「何を導入すべきか」を見極める
多くの中小企業では、「とにかくAIを導入すれば業務が楽になる」と考えがちだ。しかし、AIにも得意不得意があり、用途に合わないものを導入しても意味がない。
IT顧問はまず、業務フローを分析し、「本当にAIを導入すべきか?」を検討する。今回の事例では、AI OCRを導入するよりも、クラウドサービスの活用と自動化ツールの組み合わせが最適であることがわかった。
AIの導入と運用:継続的な最適化が必要
AIは一度導入すれば終わりではない。例えば、OCRの精度を上げるには、継続的なデータのチューニングが必要となる。また、AIが誤認識をした場合の修正フローも考えなければならない。
IT顧問は、これらの運用フローを設計し、企業がAIを無駄なく活用できるようにサポートする。AI導入が失敗する原因の多くは「運用が考慮されていない」ことであり、これを防ぐためにIT顧問の支援が重要となる。
高額なAI導入を回避し、最適な投資を実現
AIを導入する際、ベンダーは高額なシステムを提案することが多い。しかし、実際には数万円の投資で同等の効果を得られるケースもある。IT顧問は、特定の製品を売る立場ではないため、企業にとって最適な投資を提案できる。
今回のケースでは、ITベンダーの提案する数百万円のAI OCRシステムではなく、クラウドサービスとスプレッドシートの自動化を組み合わせることで、費用対効果の高い解決策を提供した。その結果、コストを10分の1以下に抑えつつ、同等の業務効率化を実現することができた。
クラウドサービスとスプレッドシートの組み合わせだと、AI OCRで未学習の納品書が発生しても、自ら調整することができる。ノーコードでちょっとした設定変更感覚でカスタマイズできることも、低コストの運用を実現してくれる。
まとめ:AI導入の成功はIT顧問の視点が鍵
AIは、中小企業の業務効率を劇的に向上させる強力なツールである。しかし、適切に選定・運用しなければ、コストの無駄となるリスクがある。
IT顧問の役割は、AI導入を「現実的な視点」で支援し、企業のニーズに合った最適な解決策を提供することである。高額なAIシステムを導入するのではなく、必要最小限の投資で最大限の効果を発揮できる方法を見極めることが、成功への鍵となる。
中小企業がAI導入を検討する際には、まずはIT顧問に相談し、本当に必要な投資なのかを見極めることを強く推奨する。適切なAI活用によって、業務効率を飛躍的に向上させ、競争力を強化することが可能となる。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
また、お会いしましょ。